単行本版「きんいろモザイク」に登場する書体を調べてみた(2)
2016.07.23
(1)の続きです。
今回は2巻の登場書体について書いていきます。
記号の説明:
登場人物紹介のページ=▲ 1巻以降で新しく登場した書体=○ 1巻以降で新しく登場した写研書体=◎

<<第2巻>>


○University Roman ▲
レトラセットから1972年に発売された書体です。[1]

○筑紫A丸ゴシック ▲
フォントワークスからリリースされた丸ゴシック体です。
一部のウェイト(太さ)は最新のMac OS Xに標準でインストールされています。

○ヒラギノ明朝 ▲
大日本スクリーン(現・SCREENグラフィックアンドプレシジョンソリューションズ)からリリースされた明朝体です。
こちらも最新のMac OS Xに標準でインストールされています。

○游築五号かな ▲
こちらもSCREENからリリースされたかな書体です。
ヒラギノ明朝体と組み合わせて使えるようになっています。

○新丸ゴ [初登場:P.3 上部]
モリサワからリリースされた丸ゴシック体です。

○アンチックAN1 [初登場:P.3 1]

○太ゴB101 [初登場:P.3 1]

○新ゴ [初登場:P.3 2]
モリサワからリリースされた角ゴシック体です。
ゴナの代用書体として使われているようです。

○タカハンド [初登場:P.5 2-3]
モリサワからリリースされたデザイン系書体です。

○ハルクラフト [初登場:P.6 2-4]
こちらもモリサワからリリースされたデザイン系書体です。
イナブラシュに似た使われ方をしているようです。


ゴカール
中見出しアンチック
石井太ゴシック
大蘭明朝体
ゴナ
イナブラシュ
ナール
スーシャ
イナクズレ(P.13 2-4)
ファン蘭 (P.16 1-3, P.21 2-1,P.40 1-4, P.81 1-3, P.86 2-4)
オクギ (P.21 2-4)

○平成丸ゴシックW4 (P.22 2-1)
写研が原字を制作し、平成明朝体と同じく多数のメーカーから発売されている
丸ゴシック体です。1回だけワンポイント的に登場しています。

イナミン

○レゲエ [初登場:P.41 4]
フォントワークスからリリースされたデザイン系書体です。

○ロダン[初登場:P.41 タイトル]
フォントワークスからリリースされた角ゴシック体です。
3巻以降は後述のハッピーと組み合わされる書体として登場します。

イナひげ
タイポス


○ハッピー [初登場:P.67 2]
佐藤豊さんが制作された、かな書体です。


○ぶらっしゅ[初登場:P.67 4]
イナブラシュと同じく稲田さんが制作された書体です。
リョービからリリースされ、現在はタイプバンクから購入できるほか、
モリサワパスポートにも入っています。

イナピエロ


◎ゴーシャOS (P.103 2-4)
写研のゴーシャという書体のアウトライン(Outline)とシャドー(Shadow)の装飾がついたバージョンです。

○麗雅宋 (P.109 1)
ダイナコムウェアよりリリースされたデザイン系書体です。
スーシャの代用書体として使われているようです。
また、麗雅宋はまんがタイムきららロゴの“きらら”の部分にも使われています。

○小塚明朝体 (P.119 下部の文章)
小塚昌彦氏によってデザインされ、アドビよりリリースされた明朝体です。
また、小塚氏は同社の小塚ゴシック、前述の新ゴの制作にも関わられています。

☆気付いた事
・カラーページ・P.41, P.67, P.109は現在のPCでフォントとして使える書体のみが使われている
(=DTP環境で作られている)

2巻はここまでです。まだまだ続きますので宜しくお願いします。


[1]Fonts In Use

単行本版「きんいろモザイク」に登場する書体を調べてみた(1)
2016.07.23
注:正確な情報を掲載できるよう努力しましたが、もし間違いがあればtwitter(snowy_tgn)またはメール(gnアットマークgetsuren.com)までご連絡ください。

タイトルの通りです。
1巻のみ、基本のアンチゴチ以外の書体の登場回数も調査しました。

アンチゴチとは…
漫画の基本のセリフに使われる、アンチック体(かな部分)とゴシック体(漢字部分)の組み合わせのことをいいます。
アンチック体の詳しい情報や生まれた経緯については、亮月さんのサイトの記事を御覧ください。

写研(*1)書体では石井太ゴシック体+中見出しアンチック、


モリサワ(*2)書体(デジタルフォント(*3))ではアンチックANシリーズ+太ゴB101がアンチゴチの組み合わせとしてよく使われているようです。

 

また、登場回数の少ない書体は、登場したページを、多く登場する書体は初めて登場したページを掲載していますので、
お手持ちの単行本で是非確認してみて下さい。

例:P.38 2-4→38ページの右から2列目の4コマ目

記号の説明:

登場人物紹介のページ=▲


<<第1巻>>
全845コマ うちセリフなしのコマ54コマ セリフありのコマ791コマ
基本的に特記がない限りは、すべて写研書体です。


▲ミウラ見出しLiner
モップスタジオよりリリースされた、かわいらしい雰囲気のデジタルフォントです。


ナール:76回 [初登場:P.3 上部]
丸ゴシック体です。説明的な文章や、心の中の声に使われています。
亮月さんのサイトの記事

ゴナ:67回 [初登場:P.3 4]
角ゴシック体です。
少し強めのツッコミなどに使われています。
亮月さんのサイトの記事

大蘭明朝体:18回 [初登場:P.4 2-2]
脈絡(かなのつながり)が特徴的な、極太の明朝体です。
あきれたようなセリフや、毒気のあるセリフに使われているようです。


イナブラシュ:62回 [初登場:P.4 2-4]
ブラシで書いたようなデザイン系書体です。
強めのツッコミによく使われています。
「イナブラッシュ」ではありません。

イナミン:13回 [初登場:P.5 2-4]
デザイン系書体です。
ぎごちないセリフや、奇妙なセリフに使われています。

イナひげ:5回 [初登場:P.13 1-4]
「ひげ文字」と呼ばれる、力強く装飾的要素の強い筆書体です。
イナブラシュと同じように、強めのツッコミに使われています。
「フラクトゥール」とは別物です。

ちなみに、イナブラシュ・イナミン・イナひげはすべて稲田茂さん(1928-2009)がデザインされた書体です。
稲田さんがデザインされたデジタル書体では、昭和モダン体が有名かと思われます。


※DBとは、DemiBoldのことで、太さをあらわしています。
ゴカール:32回 [初登場:P.10 2-4]
ゴナと組み合わせて使う、かな書体です。
ウキウキしたようなセリフや、少しボケの入ったようなセリフに使われています。

スーシャ:6回 [初登場:P.14 2-2]
少し斜体がかったデザイン系書体です。
横組み専用書体ですが、縦で組まれることもしばしば…
キリッとしたセリフやリラックスしたセリフ、キラキラした雰囲気のセリフに使われています。
また、本来英語のセリフを日本語で表現する際に使われています。特徴的な使用例ですね。


イナクズレ:5回 [初登場:P.22 1-4]
こちらも稲田さんがデザインされた書体です。
おびえたようなセリフや、ホラー的なセリフに使われています。

ファン蘭:7回 [初登場:P.31 1-3]
ファンテール体と呼ばれる、横画が太く縦画が細い書体のひとつです。
ボケていて且つ強調したいセリフに使われているようです。

ヨシール:1回 (P.38 2-4)
ナールと組み合わせて使う、丸文字の書体のひとつです。


オクギ:1回 (P.48 2-4)
手動写植機(*4)専用書体です。
力ないセリフやかすれ声のセリフなどに使われています。


DF特太ゴシック体:1回 (P.52 1-4)
ダイナコムウェアよりリリースされたデジタルフォントです。
ここではイナブラシュに近い使われ方をしているのでしょうか。


石井明朝体・タイポス:3回 (P.58 2-4 P.102 1-2,1-4)
石井明朝体は、石井ゴシック体の作者と同じ石井茂吉氏(写研の創業者)によってデザインされた明朝体です。
※漫画の中で使われているのは、太さから見て石井特太明朝体のようです。

タイポスは、もともとは総合書体(ひらがなカタカナ・アルファベット・漢字全てが使える書体)
と組み合わせるために開発されたかな書体群でしたが、
近年は漢字タイポスとして、漢字もデザインされ晴れて総合書体となりました。
(かなフォントとしても多数の太さのバリエーションがあります)
亮月さんのサイトの記事

ここでは、電話口から聴こえるセリフに使われています。

イナピエロ:2回 (P.78 1-4,P.112 1-4)
稲田さんがデザインされた、電算写植機(*5)専用書体です。
ボケの入ったセリフに使われています。

<<各巻共通>>
<奥付>

ロゴ:雅楽
アトリエフォントよりリリースされたフォントです。

情報:平成明朝体 [初登場:1巻P.119 下部の文章]
リョービイマジクスが原字を制作し、様々なメーカーから発売されているデジタルフォントです。
詳細については、亮月さんのサイトの記事を御覧ください。

日本で印刷されたことを示す文章:Century Gothic
1990年にMonotypeよりリリースされたフォントです。
ITC(*6)よりリリースされた Avant Garde Gothic(アヴァンギャルド・ゴシック)
の幅に合うようにデザインされているようです。[1]

ISBN:MS Pゴシック
Windowsユーザーにはお馴染みのフォントです。
リョービゴシック(B?)をベースに作られているようです。
こちらも、亮月さんのサイトの記事に詳しい情報があります。

カバーそで著者コメント:DF中楷書体
ダイナコムウェアの楷書体です。

<扉>


リュウミンの従属欧文+Optimaの改変?
リュウミンは、モリサワよりリリースされた明朝体です。
従属欧文とは、日本語フォントに標準で収録されている欧文(アルファベットのフォント)のことです。
日本語フォントに"従属"しているので、従属欧文と呼ばれます。
巻数を示す数字に関しては、特徴から見て、Optima(4巻の登場人物紹介でも登場)から一部改変しているのでしょうか。


これらの書体の名前で検索、もしくは画像検索をされると、他の分かりやすい使用例も見つけられるはずですので、
興味のある方は一度調べてみてはいかがでしょうか。
また、ここまで1巻に登場する書体を紹介してきましたが、2巻以降は別の記事に分ける事にしました。
ここまでお読み下さり、ありがとうございました。

(*1)写研
書体メーカー。前身は「写真植字研究所」
写真植字機(後述)専用書体を開発し、それらの電算写植書体化や電算写植専用書体の開発も行っていたが、
それらの書体は現在デジタルフォントとして使える状態でリリースされていない。

写真植字とは…

写真の原理を使って文字を印刷する方法のこと。
専用の印画紙に文字の形の光を当て、焼き付ける。
DTP(Desktop Publishing,デスクトップ・パブリッシング)の普及以前は
このシステム、それ以前は金属活字による組版が主流だった。

(*2)モリサワ
書体メーカー。こちらも前身は「写真植字研究所」
こちらも同じく写植書体・電算写植書体を開発していた。

(*3)モリサワは、DTPの普及頃から自社の書体を(全てではないが)デジタルフォント化している。

この2社の関係については、こちらの記事で、
写真植字に関しては亮月さんのサイトで分かりやすく説明されています。

(*4)手動写植機
手動写真植字機のこと。前述の写真植字を行うための機械。

(*5)電算写植
電算写植専用のコンピューター上で原稿をつくり、それを版下として出力するシステムのこと。
手動写植にコンピューターのシステムを導入したものといったところだろうか。
DTPと同じようなメリットをもっている。

(*6)ITC
International Typeface Corporation。1970年に3人の書体デザイナーによって設立された、アメリカの書体メーカー。
AvantGardeGothic以外に、Lubalin GraphやAmerican Typewriterなど、数多くの書体を生み出した。
現在ITCは、Monotype Imagingの子会社となっている。

(上記の内容に関しては詳細なことを正確に書く自信がないので、詳しいことは書いていません)

[1]Fonts In Use

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